メールの冒頭でたまに見かける「〇〇(メール送信者の姓)拝」という言葉は、実は送信者が受信者への敬意を示している時の表現です。拝の読み方は拝啓からくる言葉なので「はい」と読みます。
ここで「〇〇 拝」と書かれているのは、相手の名前を正式に紹介しているわけではなく、礼儀を示す目的で使用されています。しかし、この表現はごく稀に誤解を招くこともあるので、使用する際には慎重になる必要があります。
「拝」の使用に込められた敬意の深い意味
「拝」という字、またそれを含む成句を理解することで、その背後にある敬意の意味が浮かび上がってきます。
この字は、頭を下げるなどして敬意を示す行動や、神仏への畏敬の念を表す意味を持っています。さらに詳しく見ていくと、「自分の行動を謙虚に述べる」というニュアンスも含まれています。
「拝見」「拝聴」「敬拝」「礼拝」といった言葉が、これらの意味をよく表しています。
これらのことから、「〇〇 拝」という表現は、メールの受け手への深い敬意を示しつつ、「〇〇(送信者の姓)から敬意を込めて」という意図で使われています。
メールで「〇〇 拝」の署名が適さない場合
メールの署名で「拝」を使うのは、受け取る人へ敬意を示す意味合いがありますが、場合によってはこの表現が不適切、または失礼と受け取られることもあるため、気をつける必要があります。
問題となるのは、どのように「拝」を使うか、という形式です。「名字+名前 拝」、「名字 拝」、「名前 拝」といった使い方があります。
通常、「名字+名前 拝」は問題なく使えます。これは、手紙でのマナーと同じく、文末にフルネームを記載するのが普通だからです。
一方で、「名字 拝」や「名前 拝」のように、名字または名前だけを使うと、不敬とみなされる可能性があります。これは、敬意を示す際に名前の一部を省略することが、正式な敬意に欠けると見なされるからです。
以前、メールがビジネスコミュニケーションの主流になる前は、すべてのやり取りが手紙によって行われていました。その時代、多くのオフィスや家庭には、手紙の正しい書き方を詳しく説明した厚いマニュアルが置かれていました。
このマニュアルでは、手紙を書く際には適切な「頭語」と「結語」を使うことが基本マナーとして強調されていました。例えば、「拝啓-敬具」は通常の手紙に、「謹啓-謹言」はフォーマルな手紙に、「急啓-早々」は緊急を要する手紙に、「前略-草々」はカジュアルな手紙に使われます。
これについての詳細は、手紙の専門家である郵便局のウェブサイトにも掲載されていますが、注目すべき点は「拝」が結語リストに含まれていないことです。これは、「拝」がもともとは「拝啓」などの表現を省略し、敬意をよりシンプルに示すための形であるためです。
その結果、メールで「拝啓-敬具」や「謹啓-謹言」といった挨拶から始めて「拝」で終えるのは、敬意を過剰に示す誤った使い方とみなされます。
さらに、「拝」を単なる敬意の省略形として捉え、それによって表される敬意が十分でないと考える人もいます。これは、「拝」が伝統的な手紙の形式を踏襲せず、単に敬意を表すために用いられることを意味します。そのため、メールで相手に敬意や礼儀を示したい場合は、「拝」を避け、伝統的な手紙の書き方に従った頭語、結語、そして署名を使用することが推奨されます。
結局のところ、「拝」の使用は、相手との関係性や状況に応じて慎重に選ぶべきであり、特に同等かそれ以下の立場の人に対して、必要以上の礼儀を示すために限定するのが賢明です。
医療界におけるメールの慣習は「〇〇 拝」が一般的
医療業界においては、医師へ向けたメールや文書に「拝」を用いるのが普通になっています。
医師に宛てた手紙やメールを書く際、通常は「(相手の氏名)先生 御机下」や「(相手の氏名)先生 御侍史」といったフレーズを文の始めに配置し、文の終わりには「(差出人の氏名) 拝」とすることが一般的な書式です。
ここで、「御机下」とは、宛先の医師に余計な手間をかけさせないように、その書類を机の下に置くという意味があります。また、「御侍史」は、医師の近くの人に送り、医師自身が直接手紙を開けることなく済むようにする配慮を示します。
「拝」を使うことで、「深い敬意を表して頭を下げる」という強い尊敬の気持ちを伝えることができます。
このようにして、医療界では長年にわたる慣習に従い、メールや手紙で「拝」を用いて敬意を示すことが推奨されているのです。